天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず
この言葉、みなさんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
福沢諭吉の『学問のすすめ』に書かれた名言です。
人間の平等を訴えるこの言葉ですが、
この先に本当は「と云へり(~と言われている)」という言葉が続くのです。
実はこの言葉、福沢諭吉が作ったものではなく、もともとはアメリカ独立宣言から引用されていると言われています。
それでは、福沢諭吉が『学問のすすめ』を通して本当に伝えたかったものは何なのでしょうか?
天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと云へり。
されども今廣く此人間世界を見渡すに、かしこき人あり、おろかなる人あり、貧しきもあり、富めるもあり、貴人もあり、下人もありて、其有樣雲と坭との相違あるに似たるは何ぞや。
人は生まれながらにして貴賤貧富の別なし。
ただ学問を勤めて物事をよく知る者は貴人となり富人となり、無学なる者は貧人となり下人となるなり
「天は人の上に人をつくらない」と言われている。
しかし今世の中を見てみると、賢い人と愚かな人がいる。また、貧しい人や裕福な人、身分の高い人と低い人がいて、その有様は雲泥の差だ。どうしてだろうか。
ひとは生まれた時は平等である。学問をして、物事を知る人は偉く、お金持ちになる。無学の者は、卑しくて、貧乏になる。
生まれたときは皆平等かもしれないが、その後は学問によって人生がわかれる。
学問をするかどうかで人生が決まる。
これが、諭吉が本当に言いたかったことです。
『学問のすすめ』とは
どんな内容?
そもそも『学問のすすめ』とは何の目的で書かれたのでしょうか。
明治初期のもっとも有名な啓蒙書。
全十七編に渡り、学問の大切さを説いている作品です。
ここでの「学問」とは、あくまでも仕事や国家運営の役に立つ「実学」のみを指しています。
『学問のすすめ』を分かりやすく要約!
先ほど『学問のすすめ』は17編に分かれているとご紹介しましたが、その中身を見ていきましょう。
初編
人間はもともと平等だが、学問を勉強するかしないかで人生が変わる。
また、ただ勉強すればいいわけではなく、生活に役立つ「実学」を一生懸命勉強すべきである。
二編 人は同等なること
政府と人民は対等の立場でなければならない。
そして圧政から逃れるためには、学問を磨き、政府と同等の資格と地位に立つ必要がある。
三編 国は同等なること
個人が独立してこそ一国の独立も可能である。
四編 学者の職分を論ず
国の文明を発展させるには、その手本を政府ではなく人民が示す必要がある。
政府に頼らずに自分の手で国をつくらなければいけない。
五編 明治七年一月一日の詞
文明を起こすのは 国民であり、保護するのが政府である。
六編 国法の貴きを論ず
政府は国民の代理で国民の思うところに従い、事を行うもの。
また、国民は政府を差し置いて、勝手に罰を下してはならない。
七編 国民の職分を論ず
国民には、法を守ることと税金を納めることの二つの義務がある。
また、政府が暴政を行った場合、主張を貫いて身を捨てることが国民の最も良い行動である。
八編 わが心をもって他人の身を制すべからず
人間には、体・智慧・情欲・誠実さ・意志がある。
他人の権利を妨げさえしなければ自由に行動することができる。
九編・十編 学問の旨を二様に記して中津の旧友に贈る文
衣食住の安定を求めるだけで満足してはならない。
自分の心身を使い、社会の発展に努めなければならない。
生計を立てるのが困難なときでも、苦労して倹約し、大成するときを待つべきである。
十一編 名分をもって偽君子を生ずるの論
実のない上下貴賎の区別である「名分」は必要ないが、自分の立場による責任である「職分」を守ることは大切である。
十二編 演説の法を勧むるの説
見識を高めるために、物事のようすを比較し、上を目指し、決して自己満足しないようにすることが大切。
十三編 怨望の人間に害あるを論ず
世の中で最大の悪は怨望である。言論の自由の邪魔や行動の自由を妨げることをしてはならない。
十四編 心事の棚卸し
人間は想像以上に愚かなことをしてしまうもの。
普段から、自分の仕事や学問の記録をきちんとつけ、できるだけ損がないように心掛けねばならない。
十五編 事物を疑いて取捨を断ずること
信じる、疑うということには、取捨選択の判断力が必要なんだ。学問はこの判断力をつけるためにある。
十六編 手近く独立を守ること/心事と働きと相当すべきの論
独立には形のある品物についての独立と、形のない精神についての独立の2種類がある。
また、議論と実業のバランスを取ることも大事である。
十七編 人望論
栄誉と人望は 努めて求めるべきである。
『学問のすすめ』が教えてくれること
①国の発展には政府でなく人民の力が必要。
近年では、選挙に行かない若者が問題になっていますよね。選挙権が18歳まで引き下げられましたが、その投票率も著しくないようです。
そういった現状と重なり、「今の政府はダメだ」という声もよく聞きますが、それって政府に責任を丸投げしてはいないですか?
良い国には国民の力がつきものです。まずはわたしたち自身が国についてよく知る必要がありそうです。
②判断力をつけるために学問を学ぶ
判断力というのは、必要な情報とそうでないものを取捨選択する能力のことです。
現代はインターネットが普及し、わたしたちの周りにはたくさんの情報が溢れていますよね。
ですがその中にはいらない情報はもちろん、嘘の情報が紛れていることも。
情報を得ることは大切ですが、それを自分で取捨選択するために学問を学ぶ必要があるのです。
『学問のすすめ』の著者、福沢諭吉の功績
福沢諭吉といえば、一万円札を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
ですが実際に福沢諭吉がどんなことをしたのかはご存知ですか?
『学問のすゝめ』以外にも、近代日本の発展のために沢山のことを行った人です。
福沢諭吉は何をした?
・洋書の翻訳をした
福沢諭吉が生きた幕末は鎖国のため、外国語ができる人が多くいませんでした。諭吉はオランダ語と英語の知識を活かし、20代前半の熟成時代から洋書の翻訳を行っています。「speech」を「演説」、「society」を「社会」と訳したのは彼だと言われています。
・言論人として様々な提言をした
政府とは異なる立場で様々な主張を行い、木戸孝允と協力して近代学校制度「学制」を制定しました。また、新聞に「国会論」を掲載し、国会開設や憲法制定に向けた提言を行ったのも福沢諭吉です。
・作家として様々な書物を残した
福沢諭吉の功績で最も有名なものは『学問のすすめ』を記し、実学を推奨した事ではないでしょうか。これ以外にも諭吉は『西洋事情』や『福翁自伝』、『文明論之概略』など多くの著作を残しました。
・沢山の学校の設立に関わった
慶応義塾大学を創立したことで有名ですが、それ以外にも一橋大学や早稲田大学、専修大学など沢山の学校の創立に関わりました。
・近代日本の商業の発展に貢献した
江戸時代に欧米を回っていた福沢諭吉は帰国後、中央銀行という考え方を日本に伝えました。複式簿記や保険制度を日本に伝えたのも諭吉の功績です。近代日本の商業の発展に尽力しました。
このように銀行や保険制度など、福沢諭吉の功績は今の私たちの暮らしに深く関わっています。
明治の社会に大きな変化を起こした福沢諭吉。一万円札の肖像画になっているのも納得ですね!
外国語で外国語をマスター?
福沢諭吉は元々蘭学者で、ヨーロッパ系の学問・技術・文化などの様々な知識を学び・理解し、日本の為に活用することが仕事でした。
そのため、鎖国中でも唯一交流のあったオランダ語を学ぶ必要がありました。
パソコンもスマートフォンもない時代。外国語を習得するのは相当な苦労を要するようでしたが、当時は蘭和辞典もあり、その気になればオランダ語をマスターすることもできたようです。
ですが日米修好通商条約により、日本は鎖国政策から一転し、開国を決めました。
その後、福沢諭吉は世界中から集まる外国人商人たちの共通言語が英語だと知り、衝撃を受けます。
当時は和英辞典など存在しなかったため蘭英辞典を購入し、オランダ語で英語の勉強を始めました。
諭吉がとった方法は、ひたすら写経。
① 沢山の分量の英語をを音読
② 短文を訳す
③ 興味を覚えた問題について常に作文を書き写経
これをひたすら繰り返し、諭吉は英語をマスターしたそうです。
たくさんある!福沢諭吉の名言
福沢諭吉は功績と共にたくさんの名言を残しました。
賢人と愚人の違いは学ぶか学ばないかによって決まるのである。
自分の考えだけで、他人を評価してはならない。
自由と我がままとの境界は、他人に迷惑を掛けるのと掛けないのとの間にあります。
人生において偶然に得たものは、また偶然に失うこともある。
学問の道に入ったならば大いに学問すべきです。農業を志したなら豪農になりなさい。商人になるならば大商人になりなさい。学問をする者は、小さな安楽に満足してはなりません。
福沢諭吉を英語で紹介してみよう!
日本が誇る偉人、福沢諭吉。
海外の人に紹介するときは、どうやって言えばよいのでしょうか?
福沢諭吉にまつわる言葉を英語で紹介します。
Encouragement of Learning
『学問のすゝめ』
Heaven does not create one man above or below another man.
天は人の上に人をつくらず
“It is said that heaven does not create one man above or below another man. Any existing distinction between the wise and the stupid, between the rich and the poor, comes down to a matter of education.”
「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」と言われている。それなのに賢い人と愚かな人がいて、富める人と貧しき人がいるのは、つまるところ教育の問題である。
ten-thousand yen bill
一万円札
まとめ
今回は『学問のすすめ』をはじめとした福沢諭吉のあれこれをご紹介しました。
学問のすすめは少し敷居が高いイメージがありますが、現代のわたしたちにも共通する、大切な教えを説いています。一度手にとってみてもいいかもしれませんね。