まず、シェイクスピアってどうすごいの…?
Open Syllabus Project によって集められた1.1000000のシラバスから集計された結果によれば、英語文化圏の大学で、今でも最も読まれている作家はシェイクスピアであるとのこと。
高校の授業でも教材として必ず登場し、シェイクスピアの文章を初めて読み、そこで「初期近代英語で書かれた散文から、ユーモアを見つけ出す」という典型問題に出会う、というのが高校生活の定番、いわば“あるある”なんだとか。
日本語で言うと、古典の授業で、俳句の掛詞を探したり、和歌のやりとりの面白みを説明したりする、アレと似ているのかな~と想像します。
そう、彼の著作は、現在の文学や演劇を理解する上で必要不可欠な「古典的教養」であり、現在に至るすべての作品に影響を与えていると言われています。
シェイクスピア作品が文学と演劇の可能性を切り開いた
例えば、ロミオとジュリエットが好評を博するまでは、恋愛関係は悲劇にふさわしい題材だとはみなされていませんでした。また、劇中に登場する「独白」は、シェイクスピア以前、登場人物や状況を説明するためにしか使われていませんでした。(陣内智則さんの一人コントの最初の「あ~おいしそうなレストランあるな~~入ってみよか~~」みたいなやつですね)
しかし、シェイクスピアは独白を、それを発する人物が、自身の思考や感情について思いを巡らせる様子を表現したり、まさに自身の思いを告白したりする表現として使用することを発明したのでした。
「ああロミオ、、あなたはどうしてロミオなの…?」などの有名な独白も、こう見ると、現在文学だけでなくドラマや映画で当たり前の表現の、偉大な先祖であるということが分かりますね。
現代の英語を「創った」シェイクスピアの造語
シェイクスピアの時代の英語は「初期近代英語」とか、Elizabethan English(エリザベス一世の治世の頃に話されていたという意味で)と呼ばれます。シェイクスピアの英語は同時の英語の資料として重要なだけでなく、彼自身が、彼の著作で、英語の新語を作ったり、表現を深化させたりして、近代英語そして現代英語に繋がる表現を確立した点で、非常に重要なのです。
英語は、ラテン語やギリシャ語に比べてずっと若い言語ですが、彼の時代には文法・綴り・発音が今日の英語より規格化されておらず、人や地域によってずいぶん使い方も違う、不安定な状態にありました。
ちょうどシェイクスピアが劇を書き始めた1590年ごろ、戦争や外交、探検や植民地化などの影響英語は急激に周辺言語から語彙を吸収していました。エリザベス女王の時代までには、哲学や神学や自然科学においても広く使われるようになっていたのですが、英国作家は、そうした領域の思考を表現する語彙を十分に使えない状況にありました。
こうした状況の中で、シェイクスピアたち新進の作家が、新しいアイディアや特徴を輸入して新しい英語を作っていきました。この造語運動のことを「Neologizing」と言います。
1500年から1650年の間、3万語の新語が英語に加えられた、という研究では推定されています。
シェイクスピアは、ラテン語やフランス語や英語本来のルーツの要素を組み合わせたり操作したりして、何千もの新語を創造しました。Oxford English Dictionary によれば、以下のような言葉がシェイクスピアの創造によるものです。
arch-villain(大悪党), birthplace(生まれ故郷), bloodsucking(吸血), courtship(婚前の恋愛機関), dewdrop(露のしずく), downstairs(階下), fanged(毒牙のある), heartsore(悲嘆に暮れた), hunchbacked(猫背の), leapfrog(馬飛び), misquote(間違って引用する、伝える), pageantry(野外劇), radiance(目や顔の喜びにあふれた輝き), schoolboy(男子生徒), stillborn(死産の・不成功の), watchdog(番犬・お目付け役), and zany(道化役).
シェイクスピア作品の名言たち
では、シェイクスピア作品から、頻繁に引用される箇所をご紹介しましょう。名言をきっかけにして、読書や鑑賞に挑戦してみるのもいいかもしれません。
自殺を図るハムレット、有名な独白(Hamlet)
“To be, or not to be: that is the question:
Whether ’tis nobler in the mind to suffer
The slings and arrows of outrageous fortune,
Or to take arms against a sea of troubles,
And by opposing end them. To die: to sleep;”ポロニウスがレアティーズを励まそうとする会話から (Hamlet)
“This above all: to thine own self be true,
And it must follow, as the night the day,
Thou canst not then be false to any man.”マクベス、女王の死に際して (Macbeth)
“Life’s but a walking shadow, a poor player
That struts and frets his hour upon the stage,
And then is heard no more. It is a tale
Told by an idiot, full of sound and fury,
Signifying nothing.”彼がフランスに出発する前に、伯爵夫人がバートラムに心優しい知恵を授ける (All’s Well That Ends Well)
“Love all, trust a few,
Do wrong to none: be able for thine enemy
Rather in power than use, and keep thy friend
Under thy own life’s key: be cheque’d for silence,
But never tax’d for speech.”ハムレットがホレイショ―に幽霊が出たことを説明するセリフ (Hamlet)
“There are more things in heaven and earth, Horatio,
Than are dreamt of in your philosophy.”カエサルが彼が死ぬのではないかという恐れを抱く妻をなだめるセリフより。彼は後に本当に殺害される (Julius Caesar)
“Cowards die many times before their deaths; The valiant never taste of death but once.”カシウスが、ブルータスにカエサル暗殺の陰謀に加わるようそそのかす時(Julius Caesar)
“Men at some time are masters of their fates:
The fault, dear Brutus, is not in our stars,
But in ourselves, that we are underlings.”